ベトナムの外国人投資家の資金準備義務撤廃


2024年9月、ベトナム財務省は2024年11月2日から、株式投資に関する規制を撤廃することを発表しました。
これまでは、外国人がベトナム国内の株を購入する際、購入前に必要な資金を国内口座に全額移動することが義務づけられていましたが、これを撤廃するというものです。今回の法改正は投資家やベトナムの株式市場にどのように影響を与えるのでしょうか。ベトナム市場の現状と合わせて解説します。

ベトナム市場の現状


高い経済成長率

ベトナムのGDP成長率は、毎年6〜8%と高い数値で推移しています。高い水準で経済成長が続く理由のひとつは、人口ボーナス期であることです。「人口ボーナス期」は総人口に占める生産年齢人口の比率が高い期間のことで、ベトナムでは2040年頃までこの人口ボーナス期が続く見通しです。今回の経済成長を背景に、株や債券などの証券市場への投資に関心を示す外国人投資家が増加しており、過去30年間のGDP成長率の平均が0.8%ほどしかない日本と比べると、ベトナムでは遥かに高いリターンが期待できるのです。

株式市場の発展に余地がある

現在のベトナム株式の時価総額は14兆円程度と小さく、まだまだ発展の余地が大きい株式市場と考えられています。今後、発効される環太平洋パートナーシップ、いわゆるTPP協定に加盟している11ヵ国の中で、ベトナムは1人当たりGDPが飛び抜けて低い国です。TPPによってベトナムへ労働集約として産業の需要が高まり、経済的に大きな恩恵をもたらすと考えられています。TPP以外にも、ベトナムは、2020年にEUベトナム自由貿易協定、東アジア地域包括的経済連携など、大型協定を相次いで発効し、貿易の自由化を促進しています。

ベトナムと米国との関係


9月に米国のバイデン大統領がベトナムを訪問し、米国との外交関係を2段階アップグレードし、最高位の「包括的戦略的パートナーシップ」となったことが話題となりました。ベトナムが中国やロシアと同様に世界で数少ない社会主義国家であることをふまえれば、これは非常に重要な出来事です。しかし、ベトナムは社会主義国家ながら歴史的に中国と対立してきました。昨今、米中の対立が深まる中で、米国はベトナムを対中戦略に重要な国家だと捉えているのです。

もともとベトナムは、コストを抑えたうえで若く優秀な人材が多いことや経済成長性などから、大企業などの事業展開先として注目されてきました。米中貿易戦争が激化する中、ベトナムを中国に代わる半導体サプライチェーンの一部と見立てて、米国企業の工場の進出が始まっています。さらに、人件費の上昇を背景に中国においても、グローバル企業の生産拠点の移転を模索する動きもあり、ベトナムへの生産工場の移転を加速させています。米国の政治的な動きはベトナムの経済を押し上げ、「ポストチャイナ」の有力国として存在感を高めています。

日本とベトナムの関係


2023年に、日本とベトナムは外交関係樹立50周年を迎えました。これまで日本とベトナムは、政治や外交、経済、文化など、さまざまな分野で戦略的パートナーシップを築いてきました。日本には高度な技術、資金力、ガバナンス、ベトナムにはコストを抑えた若くて優秀な労働力、成長する国内市場といった、相互に補完できる分野が多くあります。日本とベトナムの関係は、今後も貿易や投資、経済連携協定などをきっかけにますます良好に深まっていくと予想されています。

株式市場の規制撤廃による影響


今回のベトナム当局による株式市場規制の撤廃の発表は、国内株式市場の信頼性を向上して底上げし、外国の投資を呼び込みたいというベトナム政府の思惑があります。外国人がベトナム国内の株を購入する際に、資金を国内口座に全額移動しなければならないという規制は、これまで長い間ホーチミン証券取引所の地位向上を妨げてきました。MSCIとFTSEが算出している指数でも、ベトナム市場は新興市場よりも未成熟なフロンティア市場に分類されています。

これまでの制度では、経済が成長しても株価が上昇しにくく、世界の景気が後退した際は、新興市場よりも激しく売られやすいため、海外の機関投資家は本格的に投資ができない状態でした。そのため、多くの外国のファンドや資産家などが、ベトナム株への投資に消極的だったのです。

ベトナム財務省の通達によれば、今回の法改正により資金準備の義務を撤廃させることで、証券会社は海外の投資家が株式を購入する際、リスクを評価して事前に準備が必要な資金の比率を決定し、海外投資家が支払いを完了できなかった場合、その責任は証券会社が負うことになるとしています。また、上場企業に英語での情報開示を行うよう義務付けました。これにより、ベトナム政府は2025年までの新興市場への昇格を目指しています。

JPモルガン・マーケット・リサーチは、今回のベトナム政府の法改正に伴って、FTSEは今後1年以内にベトナムを新興市場に格上げし、投資家が市場に参入しやすくすることにより、パッシブ運用の資金が5億ドル以上流入するであろうとしています。また、MSCIもポジティブな修正を行う可能性があると述べています。

ベトナム投資にまつわるリスク


今回の規制撤廃の発表に伴って、あらゆる投資家がベトナム市場に注目していますが、高利回りである一方でリスクも存在します。ここではベトナム投資において、怒る可能性のあるリスクを解説します。

法制度の頻繁な改正

ベトナムは、まだ法制度が発展途上段階にあり、頻繁かつ突然法改正が行われることがよくあります。この唐突なルール変更によって企業活動に影響が出て、株価が大きく変動する可能性があります。政府の突然の法改正によって企業の収益が悪化し、株価の下落や債券のデフォルトなどが起こる可能性があります。

企業や政府による汚職

ベトナムでは、一部の政府関係者や企業経営陣の汚職が横行する国です。2022年4月には、大手不動産企業による社債の不正発行が発覚し、その後、芋づる式に政府や企業の汚職が発覚する事件がありました。これにより、株式市場では不動産関連株のみならず、あらゆる銘柄が急落し、債券市場でも社債の取り消しやデフォルトが増加しました。そのため、今後も汚職など不正の発覚によって、株価が急落するリスクがあることは否めないでしょう。

証券市場の運用の不透明性

発展途上段階にあるベトナム証券市場は、法律に基づいた監視体制が正常に機能していないケースも多く、不公平な取引や理不尽な法令違反の摘発、情報開示の信頼度の低さなどについて、改善が必要な状態にあります。不正な相場操作やインサイダー取引の実態が明らかになれば、株の暴落や取引停止などにより、投資家は大きな損失を負うでしょう。少しずつ改善はされているものの、証券市場の規制や監督に関する法改正を行い、よりクリアでクリーンな証券市場に近づくためにはもう少し時間がかかるでしょう。

おわりに


ベトナム市場では、今回の規制撤廃をはじめ各種改革が行われています。しかし、実際はまだ未成熟なフロンティア市場であり、ベトナム企業の能力不足や経験不足なども相まって、現段階ではまだリスクの高い投資先だと見る投資家もいます。しかし、ベトナム政府も株式市場の地位向上に向けた取り組みを本格的に進めており、近い将来大きく成長する市場になることが予想されます。

ベトナムの企業へ投資する際は、リスクを考慮しながらも業界の成長性や収益性、ベトナムの経済情勢についてしっかりと把握した上で行うことをおすすめします。

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