「脱タイ株」は絶好の買い場か?専門家が読み解く、タイ株式市場の現状と個人投資家の採るべき戦略|海外金融業界の時事ニュースを解説

嵐の後の静けさか、それとも次の嵐の前触れか


「海外投資家がタイ株を1000億バーツ以上売り越している」

この衝撃的なニュースは、タイに資産を持つ個人投資家、あるいは東南アジアへの投資を検討している方々にとって、大きな不安材料となっていることでしょう。活況を呈するアジア市場の中で、なぜタイだけが「一人負け」のような状況に陥っているのか。これは単なる一時的な調整なのでしょうか、それともタイ市場の構造的な問題の表れなのでしょうか。

110 Financial Supportは、香港を拠点とする資産運用のプロフェッショナルとして、この「脱タイ株」という現象の深層を読み解き、それがあなたの資産形成にどのような意味を持つのか、そしてこの局面で個人投資家が採るべき具体的な戦略を、鋭く、そして分かりやすく解説します。

データが示す「脱タイ株」の実態

まず、事実を冷静に見ていきましょう。タイ証券取引所(SET)の発表によると、2025年の年初から10月までの10カ月間で、海外投資家はタイ株を累計1010億バーツ(約4,040億円)も売り越しています [1]。これは、タイ市場の売買代金の半分以上(51.8%)を占める海外勢が、明確にタイ株から資金を引き揚げていることを示しています [1]。

投資家別売買シェア(2025年1月〜10月)比率
外国人投資家51.8%
個人投資家31.8%
国内機関投資家9.77%
証券会社自己売買6.62%

出典: バンコク週報 [1]

この結果、タイの株価指数(SET指数)は年初来で6.5%下落し、アジアの主要市場の中で出遅れが目立っています。一方で、売買代金は前年同月比で約28%も減少し、市場の活気が失われつつあることも懸念されます [1]。

なぜ海外投資家はタイを去るのか?


では、なぜこれほどまでに海外投資家はタイ株を売却しているのでしょうか。その背景には、複数の要因が複雑に絡み合っています。

1. グローバルな逆風:米国の金融政策と地政学リスク

最大の要因は、タイ国外のグローバルな環境変化です。米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ長期化の懸念は、新興国から資金を引き揚げ、より安全な米ドル資産へと向かわせる大きな圧力となります [2]。金利の高い米ドルに資金を置いておくだけで利息が得られるなら、わざわざリスクを取って新興国に投資する必要はない、と考える投資家が増えるのです。

さらに、長期化する米中貿易戦争や地政学的なリスクの高まりも、投資家心理を冷え込ませ、新興国市場全体からの資金流出を加速させています [1]。

2. タイ国内の課題:成長ストーリーの不在

しかし、資金流出はタイだけの問題ではありません。他の東南アジア諸国も同様の逆風に晒されています。それでもタイからの資金流出が際立つのは、タイ国内の「成長ストーリー」が不透明になっているからに他なりません。

かつて「デトロイト・オブ・アジア」と呼ばれた自動車産業は、電気自動車(EV)への移行の遅れで競争力が低下。また、主要産業である観光業も、コロナ禍からの回復は道半ばです。政治の不安定さも、海外投資家が長期的な投資を躊躇する一因となっています。

3. 個人投資家が採るべき3つの戦略

では、このような状況下で、私たち個人投資家はどのように行動すべきでしょうか。悲観的なニュースに惑わされず、冷静に3つの戦略を検討することが重要です。

戦略1:ディフェンシブな高配当株に注目する

市場全体が低迷している今だからこそ、光るのが高配当株です。タイ市場には、安定した収益基盤を持ち、高い配当利回りを維持している優良企業が少なくありません。例えば、通信、インフラ、エネルギーといった、景気の影響を受けにくいディフェンシブ銘柄が挙げられます。

株価の値上がり益(キャピタルゲイン)が期待しにくい局面では、着実に配当(インカムゲイン)を積み重ねることが、資産を守り、育てる上で有効な戦略となります。タイ市場の平均配当利回りは3%を超えており、これは他のアジア市場と比較しても魅力的な水準です [3]。

戦略2:「割安感」を武器に、長期的な視点で仕込む

海外投資家が売却したことで、多くのタイ株は本来の実力よりも割安な価格で放置されています。つまり、現在の状況は、優良株を安値で仕込む絶好の買い場であると捉えることもできます。

重要なのは、短期的な値動きに一喜一憂せず、長期的な視点を持つことです。タイ政府は、長期株式投資ファンドの創設や税制優遇策など、市場のてこ入れ策を打ち出しています [1]。また、1兆円を超える規模の投資申請が承認されるなど、デジタル分野や電子分野への投資は活発です [4]。これらの政策が実を結び、タイ経済が再び成長軌道に乗った時、現在の割安な株価は大きなリターンをもたらす可能性があります。

戦略3:ポートフォリオを再点検し、分散投資を徹底する

今回の「脱タイ株」は、改めて分散投資の重要性を教えてくれます。もしあなたのポートフォリオがタイ株に偏っているのであれば、この機会に見直しを検討すべきです。

東南アジア全体を見渡せば、インドネシアやベトナムのように、高い経済成長を続ける国々もあります。タイへの投資比率を維持しつつも、他の成長市場にも資金を振り分けることで、特定国への依存リスクを低減し、ポートフォリオ全体の安定性を高めることができます。

嵐の中でこそ、羅針盤を手に未来へ備えよ


海外投資家の資金流出という嵐に見舞われているタイ株式市場。しかし、その嵐の中でこそ、冷静に航路を見定める羅針盤が重要になります。

短期的な視点で見れば、タイ市場は不透明感に包まれています。しかし、長期的な視点に立てば、「高配当」「割安感」という、個人投資家にとって魅力的な2つの要素が見えてきます。

今、私たちが取るべきアクションは、悲観論に流されて狼狽売りすることではありません。むしろ、ご自身のポートフォリオを再点検し、ディフェンシブな高配当株や、長期的な成長が見込める割安株を、時間をかけて少しずつ買い増していく好機と捉えるべきです。

金融市場の嵐は、必ず過ぎ去ります。その先にある未来のために、今こそ賢明な一歩を踏み出しましょう。110 Financial Supportは、これからも皆様のグローバルな資産形成を、最新の金融情報と専門的な知見で力強くサポートしてまいります。

参考文献

[1] バンコク週報. 「【経済】海外投資家に「脱タイ株」の動き 指数は2カ月連続反発も売買代金が下落」. 2025年11月7日. https://bangkokshuho.com/thainews-545/
[2] 日本経済新聞. 「東南ア、株式市場改革の波 海外投資家呼び込み狙う」. 2025年10月18日. https://www.nikkei.com/article/DGKKZO92007340X11C25A0ENG000/
[3] Trading Economics. 「Thailand Stock Market | 1995-2025 Data | 2026-2027 Forecast」. https://jp.tradingeconomics.com/thailand/stock-market
[4] Reuters. 「タイ投資申請、1─9月は前年比94%増 デジタル・電子がけん引」. 2025年10月29日. https://jp.reuters.com/markets/japan/DKWFZJHPRZOSZHTYAGMWGSW5KU-2025-10-29/

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記事監修:INSURANCE 110 DIRECTOR 才田 弘一郎
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