【対談企画】新紙幣が発行されてお金の価値がなくなる?資産管理で考えるべきこと

2024年7月3日に日本で3種の新紙幣が発行されました。一万円、五千円、千円紙幣は20年ぶりの改刷になります。新紙幣では「すかし」や「3Dホログラム」など、最新技術による偽装しにくい仕掛けやデザイン、肖像が話題になっています。 

一方で、新紙幣発行に便乗した詐欺への懸念や、キャッシュレス化を推進しているなかで新紙幣の発行する政府の意図などネガティブな話題も巷で賑わっています。なかには個人の資産管理に関わる懸念事項もあるようです。 

そこで、資産管理や資産運用に詳しいシニアコンサルタントの才田氏に新紙幣発行に関するインタビューを行いました。今回は新紙幣発行とキャッシュレス化の関係や経済全体、消費者への影響について才田氏のご意見をお伺いするとともに、便乗詐欺に遭わないための対策およびこれからの資産管理で大切なポイントについても教えていただきました。

INSURANCE 110 DIRECTOR/シニアコンサルタント
才田 弘一郎

日本・海外で累計2,000名以上のお客様の資産運用をサポート。香港、シンガポール、日本、アメリカなど世界各国の保険やオフショア商品の事情に精通。日本人に適した「出口戦略」を意識した堅実な資産運用の提案が得意。



新紙幣発行の背景

通常より2年早く発表

高林:「2024年7月に新紙幣が発行されましたが、その背景についてご存じのことを教えていただきたいです。」 

才田:「新紙幣発行はいまから5年前の2019年に発表されています。なぜ今回話題になっているのか私も調べてみたのですが、通常は紙幣を替える3年前に公表されるというのが一般的であるようです。しかし今回は5年前に発表され、通常より2年長い準備期間がありました。 

政府は新紙幣発行の目的として、(発表当時の)紙幣が使われている期間が長いということもあり、偽造防止などセキュリティ面での強化やユニバーサルデザインの向上を挙げています。実際、新紙幣には3Dホログラムやマイクロ文字など新技術が導入されており、技術革新によるセキュリティ向上を目的とされていることがわかります。」 

高林:「3年前ではなく、5年前に発表されたというのは何か違う目的などがあったのでしょうか?」 

才田:「あくまで当時の話題ですが、従前より準備期間が長いということで、デノミネーション(通貨単位変更)によりお金の価値を変えようとしている、紙幣を発行することで旧紙幣が使えなくなるなどといったことが懸念されていたと記憶しています。 

(発表が5年前であった)本当の理由は表に出てくることはないと思いますが、従来と比べて時間差があることには、何らかの意味があるのではないかという気はしています。」

キャッシュレス化の促進

高林:「新紙幣発行に伴いキャッシュレス化が進むのではないかと言われています。どのように促進されていくと才田さんは思われますか?」 

才田:「キャッシュレス化というと、『自分が何にお金を使ったか把握しやすく便利だ』などと(生活者にとっての利点が)よく言われますが、実はお金の発行コスト削減に寄与する、つまり発行者側にとってのメリットが大きいと思います。紙幣や硬貨の発行コストがいくらかかっているかというと、1万円札1枚に約20円、1円硬貨1枚に1.8円と言われています。ですので、キャッシュレス化が進むとこのコストが大幅に削減されます。」 

高林:「キャッシュレス化は店舗(事業者)や消費者にとってのメリットもあると思いますが、新紙幣発行とキャッシュレス化の進展にはどのような関係がありますか?」 

才田:「これは私の憶測的な部分もありますが……。まず、事業者側にすると、紙幣が新しく変わることで自動販売機や両替機、偽造紙幣を鑑別する機械など、さまざまなインフラを整備する必要が生じます。それにはコストが発生しますが、例えばコストを負担するにしてもインフラ整備対応のコストとキャッシュレスシステム導入のコストではどちらが経済的か、新紙幣発行を機に比較検討するようになります。その際、キャッシュレス決済を選ぶ事業者もいるのではないかと思います。つまり、新紙幣を発行することでキャッシュレス化が普及しやすい状況になっていくということでしょう。」 

高林:「日本政府はキャッシュレス化を進めたいのでしょうか?それとも現金社会を維持したいのでしょうか?」 

才田:「私は日本政府や日本銀行の者ではないので本意はわかりませんが、世界的な決済システムの状況やインバウンド(外国人消費者)が増えている日本の状況だけを見ると、可能な限りキャッシュレス社会に近づけたいという意図は感じます。対外国という視点でも日本だけがいまのまま現金社会であるというのは避けたいのではないかと思います。」 

高林:「キャッシュレス化を推進させたいという前提があるなかで新紙幣を発行するのは、先ほどお話しされたような両替機の問題のように新紙幣が使えない状況にすることで必然的にキャッシュレス化を進めるという理解で大丈夫でしょうか?」 

才田:「より身近な場面で、例えばゲームセンターはイメージしやすいかもしれません。ゲームセンターは機械に現金(硬貨)を入れて遊ぶので、両替機がたくさんあります。でもいまは、SUICAのようなICカードにチャージして遊ぶこともできるようになっています。新紙幣に変わって、大手企業なら両替機を全機入れ替えることもできるかもしれませんが、多くの場合、1~2台は新しいお金に対応させるとしても、あとはICカードにチャージしてもらうようにするのではないでしょうか。」

タンス預金の取り締まりも

隠れていたお金があぶり出される

高林:「新紙幣発行によってタンス預金があぶり出されるなどとニュースで言われています。これはどういう意味でしょうか?」 

才田:「『あぶり出し』という言葉が適切かどうかはわかりませんが、そういう話はあり得ますね。 

少し話が飛躍しますが、お金というのは預金口座等を通して動いている場合、使う側も監督する側も管理できるんですね。しかし、現金は管理しにくいんです。極端な話をすると、例えば、銀行が『1日いくらまでしか引き出しできません』というように規制した場合でも、現金はどこにでも置いておけますし、制限額以上に保管や使用も可能です。 

オンライントラブルなどに備えて緊急予備資金的に現金を持っておきたいという人もいますが、問題になるのは国が管理できていないお金です。

先日、財務大臣がこれまでの紙幣もそのまま使えるということを述べられましたが、あえてこのような発言をするということは、その逆もあり得ると考えることもできます。旧紙幣が使えなくなる可能性があると告知されれば、多額の現金を持つ人々は新紙幣に交換せざるを得なくなり、手持ちの現金を銀行に持ち込もうとします。

緊急予備資金的な金額であれば問題ないと思いますが、例えば千万・億単位のお金の場合、その出所、すでに税金を払っているお金であるかどうかを確認できなければ銀行は受け付けてくれません。納税して初めて新紙幣に替えてもらえます。それによって税務当局が不透明な資産を把握しやすくなります。 

このように、これまで国側が管理できていなかったお金を(使えなくなるかもしれないと所有者が考えて)表に出すようになることを『あぶり出し』という表現で言っています。」

現金の価値と安全性は?

新紙幣交換詐欺に注意が必要

高林:「新紙幣発行によって詐欺も増えているようです。才田さんは金融詐欺にもお詳しいと思うので、ご存じのことがあれば教えてください。」 

才田:「新紙幣は偽装が難しい工夫が多々されていますから、そういう点では紙幣価値や安全性が向上します。しかし、新しく何かができるというような場合は常に注意が必要です。 

というのも、新紙幣はもう発行されましたが、まだ見たことがない人が多いですよね。なので本物かどうかの見分けをつけられないんです。先ほど、タンス預金についてもお話ししましたが、『今までの紙幣は使えなくなるから新しい紙幣に交換してあげます。』などという新紙幣への交換詐欺のリスクがあります。

特に高齢者などは本当の情報かどうかの判断をしにくい方も多く、手持ちの現金を渡して交換してもらうことも考えられます。現時点では本物と偽物の見分けを付けられない人がほとんどですから、交換したお金を実際に使ったり、銀行に持って行ったりした時点ではじめて騙されたことがわかるんですね。 

旧紙幣も引き続き使用できますし、被害に遭わないためには焦らず自然に手元に新紙幣が回ってくるのを待つのがいいでしょう。本来、新紙幣に交換するためにわざわざ出向いてくる人はいないことを認識しておくことも大切です。新紙幣が手元に欲しい方は、銀行等へ出向いて旧紙幣と交換してもらうなど、自らアクションを起こすことが必要です。」

新紙幣発行は経済や消費者にどう影響する?

経済への影響

高林:「新紙幣発行によって日本経済全体にどのような影響があるのか教えてください。」 

才田:「新紙幣を発行することで市場での通貨の流通量が増えます。発行量は1万円札、5,000円札、1,000円札のそれぞれで異なっていますが、数千万枚〜数億枚発行されました。しかし、これまで流通していた旧紙幣を削除したわけではありません。これがどういうことかというと、流通量は確実に増えているということで、それだけお金の価値が薄まるということです。お金の価値が薄まれば、いま以上にインフレが進む可能性につながります。希少価値がなくなると、そのモノの価値が下がる。これは一般的な経済の法則として言えることですよね。」 

高林:「円の価値が下がってインフレが進む。その先にはどのような影響がありますか?」 

才田:「インフレは物の値段が高くなることですよね。会社員の賃上げといったニュースも流れていますが、すべての企業がそうではないと思います。結果的に多くの人が生活しにくい状況になる。不動産や車などの高価なモノは、努力は必要ですが、これまでは購入を目指せていました。しかし、買うことを目指すこともできなくなるかもしれない。外貨に対しても円の価値が薄まれば円安が進みます。そうなれば輸入が難しくなる懸念もあるなど、さまざまな影響が考えられます。 

お金の量を増やした分だけ個人の懐に入るようになればいいですが、今の社会制度のなかではそれも難しいですよね。例えば、給料が増えてもその分社会保険料や税金が上がったりしますから。」

個人への影響

高林:「新紙幣発行は消費者にとってより厳しい状況になる可能性が高いということでしょうか?」 

才田:「インフレの可能性もありますが、負荷はそれだけではないです。新紙幣への切り替えやキャッシュレス化の動きなど、いろんなことが複合的に動いていますから、個人もそれに対応していく必要があります。例えば、手持ち現金の確認や銀行での交換手続き、キャッシュレス化への対応が求められます。人によっては課税の増加も意識する必要があるかもしれません。」 

高林:「新しいデザイン・技術の紙幣が発行されたって喜んでいる場合ではないということですね。」 

才田:「お金は必要ですけど、お金がなくても大丈夫な生活圏を作ることや、日本以外の生活圏もイメージしておくといいかもしれませんね。その方法のひとつとして、例えば、海外に一歩踏み出してみたり、移住して働いてみたりというのもいいかもしれませんね。」

新紙幣発行により資産管理も変えるべき?

資産保護の方法

高林:「個人には悪い影響も考えられるとすれば、資産を守るためにどのような動きをしていくのがよいのでしょうか?」 

才田:「資産を守るためには、日本円の預貯金だけでなく、外貨や投資信託など多様な資産に分散投資をすることが重要です。とくに、日本に居住されている人については、日本円だけに依存せず、通貨を分けることも考えられるといいと思います。ただ、ペイオフといって、日本の預金保険制度ではもしも銀行が破綻しても元本1,000万円までとその利息が保護されますが、保護されるのは日本円の預金のみです。外貨預金はペイオフの対象外なんです。 

なので、できる人とできない人がいるとは思うのですが、外国に預金口座等を作り、そこで外貨資産を保有しておければ大きなアドバンテージになるのではないかと思います。ただこれも各人・各家庭の状況によって適する商品や方法が異なりますので、充分に検討する必要はあります。海外移住を検討されている方などはぜひご相談いただきたいですね。」 

資産の増やし方

高林:「資産を増やすための方法にもさまざまな方法があると思いますが、才田さんからのアドバイスがあればお願いします。」

才田:「増やすという発想を捨てることも大切かなと思っています。以前の対談でもお伝えしましたが、人はどうしても魅力的なものに惹かれる傾向があり、増やそうとするほど騙されるリスクも高まります。自分ではリスクを把握できていると思っていても実際には把握しきれていないリスクもあり得ます。

ですので、自分があまり理解できないような商品には投資をしないことが大切です。増やすと考える前に、まずは資産をどう保全するかを考えていただきたいです。そのひとつとして先ほどお話ししたように、上手に外貨を持つことも望まれます。それも、もし海外に展開できるのであれば、海外の金融機関で外貨を持つというのも今後の資産保全という点で強みになると思います。

日本から一歩も出たくないという方には、不動産を持つのもひとつの方法ですが、不動産価格の値上がりや維持管理の負担を考えると『なんとなく良い』という考えで投資するのはおすすめできません。本当に価値があるものは何かをしっかり検討したうえで確保することが大事になってきます。

時代の流れ的にも『投資で増やそう』という風潮が大きいからこそ、あえて真逆のことを言わせていただきましたが、こういう時代だからこそ『増やす』という考えよりも『お金の置き場』『通貨』を変えてみるようにして資産の多様化を図るのがよいと考えています。そういうことはすでにしているけど、ほかに何かないのかと思われる方はぜひご相談いただければと思います。」

新紙幣発行と未来の展望

高林:「最後に、新紙幣が発行されたことで考えられる将来の日本経済・社会への影響があれば教えていただきたいです。」 

才田:「2018年1月の日経新聞に、今後フィンテック(ファイナンス+テクノロジーの融合)がどう進展していくかをロードマップにした一面記事がありました。このなかで、2030年には財布からキャッシュが消えるとされています。それを鵜呑みにしているわけではないのですが、私もその記事を切り取っていて、日々、進捗状況を確認しています。実際、日本で発明されたQRコードが海外でお金の決済という枠組みで使える様に進化し、逆輸入され日本国内でも普及してきています、これだけ見てもお金にまつわる世の中がすごく動いていますよね。 

今回、新紙幣発行とキャッシュレス化の関係についてもお話しさせていただきましたが、私たちの生活における利便性や効率性は政府だけでなく多くの企業、人々が目指していることだと思います。そのうえで、例えば、国は紙幣の印刷とか物理的な通貨を発行しなくても、あるコミュニティのなかにある(デジタル)通貨を皆が信用して使える状況を創ることが一番効率的なのではないかと思います。数年のズレは生じるかもしれませんが、そこを目指して進めていくのではないでしょうか。 

将来的に、いつかデジタル通貨を使う時代が来るとは思いますし、フィンテックの進化によってお金の価値や流通形態は進化していくと思います。それがいつで、いまの物理的なお金はどうなるのかということはわかりませんが、個人としては、お金をどこに置いておくのか、どうやって増やしていくのかということは、世の中の動きを見つつ、しっかり考え行動することが必要だと思っています。」 

新紙幣発行を機にお金の管理の仕方を考えよう(まとめ)

新紙幣発行は偽造防止やキャッシュレス化の促進、タンス預金のあぶり出しなど多くの目的があると言われています。これにより経済全体や個人資産に様々な影響が及びます。

資産保護や増やし方についても、これまでとは異なる視点を持つことや新たな方法も検討することが大切です。将来的にはキャッシュレスを飛び越え、デジタル通貨が流通する時代が来るかもしれません。フィンテックの進化に注目し、資産の置き場や管理の方法を世の中の動きに対応させていくこと、将来的な変化に備えることが重要です。

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記事監修:INSURANCE 110 DIRECTOR 才田 弘一郎
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