タイのクルマ産業の衰退と日本車メーカーの苦戦

はじめに


タイは早くから日本の自動車メーカーが進出し、自動車産業で働く日本人駐在員も多い国です。また、タイに限らず東南アジアの多くの国は、これまで日本車が圧倒的なシェアを謳歌してきた市場でもあります。しかし、トレンドがガソリン車から電気自動車(EV)に移行している現在、中国メーカーが莫大なPR予算を投入し販売台数を伸ばしており、タイを中心とした東南アジア市場で状況が変わりつつあります。最近は日本車メーカーの存在感が薄まり、海外駐在員の帰任も増えています。今回は、タイ自動車産業の背景を解説します。

バンコク国際モーターショーでの異変


東南アジア最大の自動車生産国であるバンコクで、毎年春に開催される自動車の展示会がバンコク国際モーターショーです。トヨタやホンダ、日産など日本のメーカーをはじめ、さまざまな国の主要ブランドが参加する、東南アジアで最も大きな自動車イベントの1つとなっています。

タイのモーターショーの独自の魅力は、会場で新車の購入予約ができるということです。会場限定の低金利キャンペーンなどの特典が用意されているため、新車購入を目的に家族で訪れる人も多く、気に入ったクルマがあればその場で予約購入していくというのが通例です。そのため、バンコク国際モーターショーにおける新車受注台数は、タイの新車市場における人気のバロメーターとも言われています。そんな中、2023年のバンコク国際モーターショー会場における開催期間中の受注実績ランキングで異変が起きました。

1位は例年通りトヨタ、2位はホンダと日本のメーカーでしたが、その2社に続き、上海汽車(MG)が3位、長城汽車(GWM)が5位、BYDが9位と、中国の自動車メーカーがトップ10に3社もランクインしたのです。

コロナ禍前の2019年の同じランキングでは、中国メーカーは1社のみ、10位に入っていただけであることを考えると、コロナ禍を経てわずか4年で、中国車メーカーが急速に勢いを伸ばしている事がわかります。

中国勢の大躍進


タイは長らくトヨタ、日産やホンダ、三菱自動車など、日本の自動車メーカーが大きなシェアを獲得してきた市場です。タイ人にも、中国製品は信用できないが、日本製品は品質が良く憧れもあるといったように、日本ブランドに対する信頼が根付いており、街を走るクルマの9割以上が日本車だと言われています。

一部の富裕層にはハイブランドの欧州車が人気であるものの、自動車といえば日本のクルマというイメージが定着している国であると言えるでしょう。ところが、バンコク国際モーターショー会期中の新車受注台数ランキングに変化が起きているように、近年状況は激変しつつあります。

タイの街中でも中国車を見かける頻度が明らかに高くなり、日本車の牙城を崩しつつあるのが現状です。タイをはじめとする東南アジアの多くの国では、これまで日本の自動車が大きなシェアを獲得してきましたが、近年中国勢が莫大な予算を投入して販売数を伸ばしています。

中国のメーカーがこのままシェアを拡大していけば、東南アジア市場における日本車のシェア率は大きく下がる可能性もあります。日本の自動車メーカーは、これまでにない窮地に立たされているのです。

なぜ日本メーカーが苦戦しているのか


なぜタイにおいて、日本車メーカーのシェア率が下がっているのでしょうか。これには、昨今のEVの台頭が大きく関係しています。タイの自動車市場は、トヨタが60年以上前に進出して以来、メーカーとの強固なサプライチェーンが構築されていました。ところが、このサプライチェーンはエンジン車主体の生産態勢であるため、電気自動車に乗り換える海外の買い手の動きにうまく対応できていないのが現状です。これは、日本の自動車メーカーがEVで大きく出遅れていることを表しています。

また、タイの自動車生産自体の落ち込みも原因の1つです。タイの自動車生産台数は、この1年で落ち込み続けており、業界の見通しでは2024年の自動車生産台数は昨年の190万台から170万台に下振れると予想されています。一方で、EVセクターは急成長しており、中国のBYDなどから多額の投資を呼び込んでいるものの、落ち込みをカバーできるほどではありません。この痛みは既に業界全体に広がりつつあり、各メーカーが減産や雇用削減に伴って、日本のメーカー向けに長年部品を供給している部品メーカーのでも工場の生産量の減少、人員縮小が始まっています。

拡大するEVとの競争の激化による輸出面の落ち込みと、国内自動車市場の停滞というダブルパンチがタイの自動車産業を圧迫しており、悪化した市場から簡単に抜け出せなくなっています。現在は、1990年代終盤のアジア通貨危機やコロナ禍の時期より悪いと見るべきでしょう。こうした状況の中で、自動車部品業界は政府に対して、外国メーカーのエンジン車とかハイブリッド車生産向けインセンティブを強化してほしいと要望しており、政府も対策に本腰を入れはじめています。

中国製品に対するイメージの変化


タイでは、日本製品は壊れにくく信用できるという考えが根強くありますが、若い世代はそこまで日本製にこだわりはなく、スマホも家電もクルマも中国製でいいと考える人も増えています。むしろ中国製はクールだというイメージが浸透しつつあります。こうしたタイ人の心境変化は、バンコク国際モーターショー会場にも表れています。2023年会場の中国車ブランドのブース面積は、4年前には想像もできなかったほど広いスペースが確保され、BYDやMGといったブランドが、最大の面積を持つトヨタに迫る規模の広いブースを展開していました。

そして、イベント中の中国ブランドのブースはコロナ前では考えられないほどの混雑ぶりでした。また、タイの市民にとって新車は大きな買い物であり、日本車よりも価格の安い中国車は魅力的に映ります。さらにタイではガソリン代も高いため、ガソリン車よりもエネルギーコストの安いEVを選ぶ人が多いこと、さらにEVは購入時の税金が安いということも相まって、中国車の購入を検討する人が増えているのです。

おわりに


昨今のEVの台頭によって、自動車市場のトレンドは変わりつつあり、タイにおける日本自動車メーカーの苦戦がはじまっています。タイでの自動車の売り上げは東南アジア市場全体に大きく影響を与えるともいわれています。また、近年の中国のブランディングによって、タイの人々の中国製品に対する気持ちの変化も起こり始めており、日本車の牙城が崩され始めていると見るべきでしょう。

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