【2024】金融業界における生成AIの台頭がもたらすリスクと今後の方向性|海外金融業界の時事ニュースを解説

生成AIが金融業界に進出しつつある

近年、生成AI(Generative AI)が社会に急速に普及しています。生成AIとは、深層学習や機械学習といった技術を駆使して、人間が作り出すようなテキストや画像、音楽、ビデオ、さらにはニュース記事の執筆や広告制作など幅広い分野のクリエイティブなコンテンツをAIが自動で生成する技術です。

AIが一般社会に浸透しつつある中、金融業界においても、業務の効率化や顧客インターフェースの改善、情報管理の高度化などを目的に、AIを活用する動きがはじまっています。

こうした状況を受け、イギリスの金融当局は、貸出などの信用審査においてAIを活用しようとしている大手銀行に対して、消費者が不利益を被らないような措置を講じることを条件にその利用を許容しています。

米国においても、消費者金融保護局が消費者を公平に扱うという条件付きで、与信審査にAIを活用しようとする金融機関やフィンテック企業に対して、AIの利用を許容する動きが進んでいます。

金融機関において生成AIを活用することのメリット

金融当局によって生成AIを活用するための方針が発表される背景には、多くの商業銀行がAIや複雑なアルゴリズムの活用によって融資審査の自動化を進めようとしている動きがあります。

実際に多くの金融機関において、AIを駆使した審査が検討・展開されています。従来は、融資を希望する人の年齢や性別、住所、職業、収入や勤務先、過去の取引履歴といった個人情報をもとに人間が審査を行っていました。

しかし、この業務をAIに委ねて自動化することで、審査の結果を出すまでにかかっていた数日から1週間程度の時間をほぼリアルタイムにまで短縮できます。さらに、これまで審査業務に携わってきた多くの人員が不要となるためコストを削減できるほか、より多くのローン申込みを受け付けることができるようになり、結果として顧客満足度が向上するのです。

金融機関のAI活用にはリスクがある

こうした時代の流れを受けて、国際金融当局は、金融サービスにおけるAI の台頭が金融システム上のリスクになると指摘して、その状況に目を光らせています。金融業界にAIの活用が進むと、どのようなリスクがあるのでしょうか。

考えられるリスクの1つ目は、金融機関が所有するデータや個人情報の漏えいといったセキュリティリスクです。個人に紐づいた機密性の高いデータを扱う金融機関の情報が、サイバー攻撃によって流出してしまえば、社会への影響やダメージは計り知れません。

2つ目に考えられるリスクは、AI に内在する偏見やバイアスの存在です。実際に、AIやアルゴリズムが与信判断などにおける偏見やバイアスを完全に排除することは難しいとされており、差別を助長する可能性があるとされています。

特に英米では、人種差別が融資審査に影響を及ぼして、民族的なマイノリティーは審査において不利な立場にあると考えられてきた歴史があります。AIもこの歴史的な差別の流れを汲んでしまうのではないかという懸念があるのです。

3つ目として、AIによる意思決定がブラックボックスになってしまう点です。AIによる審査結果がどのようなロジックで導き出されたのかがわからなければ、利用者にとって公正なサービスとは言えなくなってしまいます。

これらのリスクに加え、AIによる誤情報の生成、ディープフェイク拡散による金融市場の混乱などを含め、様々な事象がリスクとして想定されています。だからこそ、金融当局は、その活用に慎重になっているのです。

AIと共存していくために

さまざまなリスクがあるとはいえ、金融業界にAIが浸透していくのは時間の問題でしょう。こうした状況の中、金融当局は、金融機関のAI の利用状況や管理態勢の把握、海外当局との情報共有を通じて、リスクを検証しながら規制や監督強化の具体策を検討すること、当局の取り組みやリスク認識等に関する情報を発信し、金融機関や市場参加者等の意識を高めていくことを求めています。データセキュリティやディープフェイクなどのリスクを含めた対応方針を検討すると発表し、共存していく道を探り始めています。

まとめ

金融機関におけるAI 活用が促進されれば、人員や時間的なコストが削減でき顧客満足度向上につながるだけでなく、将来的にイノベーションの創出や業務高度化にも寄与すると思われます。しかし、欧州中央銀行が公表した「金融安定性レビュー」の中では、金融分野におけるAIの利用は顧客の被害防止や市場を適正に機能させる観点から規制が必要とされる可能性があると示しているため、慎重に検討しなければなりません。

日本でも、金融機関が安心してAI を利活用できるよう、内外金融機関等の有効な活用事例や人材採用や研修体制、組織対応といったサポート態勢に関する情報等の共有などが始まっています。AIを金融システムに適切に取り入れ、全体の効率化や高度化を進めることが求められています。

最新技術による、リスクとリターンはいつの時代も紙一重な気がしますが、従来の人間生活をサポートする役割のAIであって欲しいと、切に願います。

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