日経平均株価暴落を引き起こしたキャリートレードと、そのメカニズム
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はじめに
2024年に入ってから、金融市場では株価や円相場が大きく動いています。2024年8月には日経平均株価が史上最大の下げ幅を記録し、ドル円のレートは2024年7月11日の海外市場で1ドル161円台後半の歴史的な円安水準に達するなど、株価急落や円安などの不安定な値動きが続いています。その大きな要因の1つが、ヘッジファンドなどの投機筋が行うキャリートレードだと言われています。今回はこのキャリートレードの仕組みを紐解きつつ、なぜ相場に混乱をもたらしているのかを解説します。
キャリートレードとは
キャリートレードとは、金利の低い国の通貨で資金調達をして、金利が高い国の資産に投資する取引のことをいいます。金利が低いほど資金を借り入れる時に支払う利息は少なくなるため、資金調達コストは安くなります。そして安く借りた資金を元に高い金利をくれる国の資産に投資していけば、より高い利益が見込めるのです。
2国間の金利差を利ザヤとして収益をあげる投資手法なので、金利差が大きいほどより高い運用成果と安定的な利益を手に入れることができます。このようなキャリートレードは、ヘッジファンドなど短期的な売買を手掛ける投機筋のほか、様々な金融機関やFX取引を行う個人投資家なども参加していると言われています。
円安の要因となっている円キャリートレード
円キャリートレードは、低金利である日本円を調達した後、それを外国為替市場で外貨に転換し、高金利の外貨建て資産で運用する取引です。キャリートレードで調達する通貨は日本円だけではありませんが、取引量が多く流動性が高いことから日本円が選ばれやすいようです。日本ではマイナス金利が解除された2024年の春まで、長らく日銀による大規模な金融緩和による低金利が続いてきました。
一方、米国など主要国の中央銀行は2022年以降、インフレを抑え込むべく利上げに舵を切っていたため、それを米国や新興国など高い金利の国の通貨に換えて投資するための資金作りの場として金利の低い日本が注目されていました。円キャリートレードでは購入した円を売って、高金利の国の通貨を買うので、当然円安を引き起こします。ここ数年、ほぼ一本調子で進んできた円安ドル高の背景には、この円キャリートレードの取引量の増加があると言われています。
円キャリートレードの巻き戻しが引き起こした日経平均株価大暴落
2024年8月5日の日経平均株価は、前週末比4,451円28銭(12.4%)安の31,458円42銭で取引を終えました。その下落幅は1987年10月20日の3,836円48銭を超え、過去最大の大暴落となりました。また、ドル円の相場は7月末の1ドル149円98銭から、8月5日には一時1ドル141円70銭まで、円高ドル安が大幅に進行しました。このように、あまりに急激な円高への動きが大幅な株安を引き起こしたと言われています。この背景には、米雇用統計の予想を下回る内容を受けた景気の先行き不安と同時に、円キャリートレードの巻き戻しによる急激な円高進行があります。円キャリートレードの巻き戻しとは、円を調達通貨としたキャリートレードをしていた投資家たちが取引を解消することです。円キャリートレードは、日本が諸外国に比べて低金利であるからこそ利益が出る取引です。日銀に利上げを進めようとする動きが見られたり、円高が進行して為替差損が出そうだという状況に変わってしまえば、投資家は損失を被らないように取引の解消に向かいます。そうすると、逆に高金利な外貨から円を買い戻す動きが加速し、円高へ傾くことになります。
日銀の方針転換
この急激な円高の大きな要因と言われているのが、7月会合後の植田日銀総裁の記者会見です。植田総裁は、経済と物価情勢に応じて引き続き政策金利を引き上げていくという方針を繰り返し強調したほか、利上げによって強いブレーキが景気にかかるとは考えていないことを明らかにしました。日銀は2024年3月にマイナス金利政策を解除し、7月末には追加利上げを決定しています。金利の水準はまだまだ低いものの、日銀が今後も利上げ方向に動くとなれば、海外との金利差の縮小が意識され、円キャリートレードのうまみは乏しくなってしまいます。 植田総裁のこの発言によって、これまで低金利で日本円を調達し、米ドルなどの高金利通貨で運用することで利益を上げてきたトレーダーたちは、今後日米金利差が縮小していくものと受け止め、日本がこれまでのような金利の無い世界から、金利ありきの世界へ急変するという恐れを抱いて、円キャリートレードの巻き戻しが起こった可能性があります。
円キャリートレードの巻き戻しが招いた市場の混乱
円キャリートレードは、日本円を調達して外貨建ての資産に投資することです。従って、投資家たちが円キャリートレードを解消するということは、海外資産を売却して日本円を買うことになります。例えば、円キャリートレードで米国債に投資している場合、その取引の解消に伴って米国債を売ることになるため、米国債の相場は下落します。
このように、円キャリートレードの巻き戻しが起これば、海外資産相場の下落、そして円高ドル安の方向に力がかかります。今回も海外株安と円高が急激に引き起こされたため、投資家たちは市場の混乱に反応して株式の売却に走り、つられて日経平均株価も暴落する現象が起こったと言われています。
もちろんその裏では、円キャリートレードでの損失を補填するためにリスク資産を手放して現金化する動きなど、さまざまな混乱が同時に生じていたと考えられます。
おわりに
円キャリートレードは、日本円の金利が低水準で維持され、外貨建て資産のリターンが良好と期待される時に活発になりやすい取引です。2024年3月以降、日銀の利上げペースは緩慢との観測が拡がる一方で、米国では金利の高止まりとともに株価は堅調、といった具合に円キャリートレードにとって絶好の環境が整っていました。
投機筋による歴史的な円キャリートレードのブームが起きていた中で、今回のような米国の景気先行き不安や、日銀の意欲的な利上げ観測を受けた円調達コスト上昇への懸念から、一気に投資家による円キャリートレードの解消が進み、海外株安、円急騰、日本株の大幅下落につながりました。
その後2024年10月現在、為替は再びジリジリと1ドル150円の水準まで円高に戻しています。こうした株価や為替の不安定な状況は当面続きそうです。私たち個人投資家は、こうした不安定な状況に振り回されないように、今後の日米の金利の動きに注目しつつ、慎重に投資をしていく必要があります。
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