海外駐在の帰国前後にやる手続きと税金|置いてくると損する資産の整理術

監修者情報

110Financial Support認定FP/シニア資産コンサルタント
才田 弘一郎(さいた・こういちろう/Koichiro Saita)

日本・海外で累計2,000名以上のお客様の資産運用をサポート。
香港、シンガポール、日本、アメリカなど世界各国の保険やオフショア商品の事情に精通。日本人に適した「出口戦略」を意識した堅実な資産運用の提案が得意。

海外駐在の終わりが近づくと、引っ越しや荷造りに気を取られ、税金や年金の手続きは後回しになりがちです。しかし、帰国のタイミングや手続きの順番によっては、住民税の負担が変わったり、現地に積み立てたお金の受け取りが難しくなったりすることがあります。
本記事では、香港・シンガポール・タイ・オーストラリアの駐在員が帰国前後にやるべき手続きを、現地側と日本側に分けて時系列で整理します。

この記事でわかること

  • 帰国時に現地へ置いてくると受け取り損ねる(年金・積立金)と、その回収方法
  • 住民税の1月1日ルールなど、帰国のタイミングで負担が変わる手続き
  • 帰国スケジュールから逆算した、やるべきことのチェックリスト

国ごとに異なる税申告シーズン、帰国者は早めの確認を

海外の多くの国では、日本の1月から12月という区切りとは違う税年度で税金を計算します。たとえばオーストラリアの税年度は7月1日から翌年6月30日までで、7月に入るとタックスリターン(確定申告)のシーズンが始まります。税年度の切り替わりや申告時期は、帰国を控えた駐在員にとって、現地の税金の精算と、積み立てた年金の返金手続きを動かす節目でもあります。

まず、主要な国の税年度と申告時期を押さえておきましょう。

税年度個人の申告時期の目安
日本1月から12月原則として翌年2月16日から3月15日まで。休日の場合は翌平日。
オーストラリア7月から翌年6月自己申告は原則10月31日まで
香港4月から翌年3月通常5月から6月
シンガポール暦年(1月から12月)通常3月から4月
タイ暦年(1月から12月)翌年3月31日まで(2026年の電子申告は4月上旬)

※2026年7月時点の一般的な目安です。申告期限は年により変わるため、各国の税務当局の案内で最新の日付をご確認ください。

帰国が決まったら、この申告時期を逆算し、現地で精算すべき税金と、取り戻せる年金がないかを早めに確認することが大切です。

円安局面では、現地通貨やドルで積み立てた資産の価値が、円に換算すると相対的に高くなっています。現地に残したお金を確実に回収し、帰国後の資産に適切に組み込むことの重要性は高まっています。

帰国時に現地へ置いてくると失うお金を回収する

日本側の手続きに気を取られると見落としやすいのが、現地に積み立てた年金や積立金です。国によっては、一定の条件を満たして出国した際に、一時金として引き出せる制度があります。手続きをしないまま帰国すると、受け取りに余計な時間や手間がかかったり、請求が難しくなったりする場合があります。

出国時に動く年金・積立金主な条件
オーストラリアスーパーアニュエーションの返金(DASP)一時滞在ビザで積み立て、ビザ失効かつ永久出国が条件
香港MPF(強制積立金)の早期引き出し永久出国が事由。同じ理由による請求は原則回のみ
シンガポールCPFの引き出し永住権を放棄し、シンガポール市民・永住者でなくなった人が対象。出国6カ月後から
タイ個人向けの積立返金は原則なし現地の確定申告の要否を確認

オーストラリアのスーパーアニュエーション返金(DASP)

オーストラリアで働くと、雇用主からスーパーアニュエーションという退職年金が積み立てられます。一時滞在ビザで働いた人は、ビザが失効し、オーストラリアから出国したあと、この積立金を一時金として引き出せます。これをDASP(Departing Australia Superannuation Payment)と呼びます。
ただし返金額には源泉徴収がかかります。課税対象部分の税率は、積立金区分に応じて35%または45%で、非課税部分は0%です。ワーキングホリデービザに関するDASPには、原則として65%の税率が適用されます。永住権を持つ人や現地市民は対象外のため、自分のビザが一時滞在ビザに当たるかを、出国前に確認しておく必要があります。

DASPの請求は、オーストラリア税務局のオンラインシステムから行えます。積立先のスーパーファンドの口座情報やタックスファイルナンバーが必要になるため、出国前に控えておくと手続きがスムーズです。請求はオーストラリアを出国し、ビザが失効した後に提出できるため、帰国してすぐに動けるよう、必要書類を先にそろえておくと取りこぼしを防げます。

香港のMPFとシンガポールのCPF

香港のMPFは、香港を永久に離れて戻る意思がないことを申告すれば、早期に引き出せます。ただし、永久出国を理由とする引き出しは原則として一度だけであり、虚偽の申告には罰則があります。

シンガポールのCPFは、永住権を放棄した外国人が対象で、出国から6カ月が経過してから全額の引き出しを申請できます。現在は出国から6か月待つ制度ではありません。永住権の放棄が完了した時点でCPF鋼材の閉鎖と資金の移管を申請できます。手続きをしない場合は、原則として永住権を放棄したよくつきに口座が自動閉鎖されます。

実務の流れも押さえておきましょう。MPFの引き出しは、eMPFプラットフォームや加入先の案内に従って、申請書と出国を示す書類を提出します。通常は書類がそろってから約30日で支払われます。CPFの引き出しは、シンガポール移民局で永住権を放棄する手続きを終えてから口座を閉鎖し、海外の銀行口座へ送金する流れです。

MPFを永久出国の理由で引き出す場合は、将来香港で再び働く可能性も踏まえて慎重に判断してください。CPFについては永住権の放棄と口座閉鎖が連動するため、将来の再申請や社会保障への影響も事前に確認しておきましょう。

現地の確定申告を忘れない

年金の返金と合わせて、現地での最後の確定申告も忘れがちです。タイでは暦年で180日以上滞在すると税務上の居住者となり、原則として翌年3月末までに申告が必要です。オーストラリアのように出国年のタックスリターンで税金が戻るケースもあります。現地の税理士や勤務先の担当者に、自分に申告義務が残るかを確認しておきましょう。

ここで注意したいのが、返金や還付の受け取り方法を確認する前に、現地の銀行口座を解約しないことです。DASPの返金や現地税の還付、MPFの支払いは、出国したあとに振り込まれることが多く、先に口座を閉じてしまうと受け取れなくなる恐れがあります。海外口座への送金や小切手など、別の受取方法が選べる制度もあるため、申請先へ確認したうえで解約の時期を決めてください。給与の最終振込や光熱費の精算も同じで、現地口座は最後の入出金が済むまで残しておくのが安全です。

また、現地と日本の両方で税金がかかる場面では、租税条約や外国税額控除によって二重課税が調整される場合があります。現地で納めた税金の証明書は、日本での確定申告に使うことがあるため、捨てずに保管しておいてください。帰国後に慌てて探すと再発行に時間がかかるため、出国時に手元へまとめておくのが安全です。

香港で資産保有について検討している方は、「香港がアジアの金融センターと呼ばれる理由を解説した記事」もあわせてご覧ください。

帰国前後に日本側でやるべき手続き

現地の精算と並行して、日本側でも税金と資産の手続きが待っています。ここでも帰国のタイミングが課税関係や手続きに影響することがあります。

住民税の1月1日ルールを踏まえて、出国と帰国のタイミングを確認する

日本の個人住民税は、1月1日時点で住所がある市区町村が、前年の所得に基づいて課税します。この日付を賦課期日と呼びます。1年以上の海外赴任などにより日本国内に住所がないと認められ、12月中に出国して翌年1月1日も海外で居住している場合は、原則として翌年度分の住民税は課税されません。逆に、年が明けてから出国すると、1月1日時点では日本に住所があるため、その年度分の住民税が課税されます。

住民税の課税は、転出届の提出だけで機械的に決まるものではありません。赴任期間、家族の居住地、住居や生活の本拠など、実際の状況をもとに判断されます。

具体的な例で考えてみましょう。前年の所得に対して年30万円の住民税を納める駐在員が、2年間の海外赴任のため12月20日に転出届を出して出国すれば、翌年度の30万円はかかりません。一方、年明けの1月10日に出国すると、1月1日時点で日本に住所があるため、同じ30万円が翌年度も課税されます。わずか3週間の違いで負担が変わる計算です。所得が高い人ほどこの差は大きくなり、数十万円単位で変わることも珍しくありません。

帰国側も同じ考え方です。1月1日に日本に住所があるかどうかで翌年度分が決まるため、出国と帰国の日取りは、住民税の賦課期日を意識して設計するのがおすすめです。ただし、住民税額は前年中の所得のうち、日本で課税対象となる所得を基に計算されます。そのため、帰国日を数日ずらせば必ず1年分の住民税を節約できるとは限りません。

赴任期間は会社の都合で決まることが多いため、日取りを調整できる余地があるかを、早めに勤務先と確認しておくとよいでしょう。

NISAとiDeCo、証券口座を居住者に戻して立て直す

海外赴任前に「(非課税口座)継続適用届出書」を出していれば、帰国後に「(非課税口座)帰国届出書」を金融機関へ提出することで、同じNISA口座で新規の買付を再開できます。継続摘要届出書を提出した日から5年を経過する非の属する年の12月31日までに帰国届出書を提出しなかった場合、NISA口座は廃止され、保有商品は課税口座へ払い出されます。

iDeCoは、海外居住中でも、日本国籍があり、国民年金の任意加入被保険者になるなどの要件を満たせば、掛金の拠出を継続できる場合があります。国民年金に任意加入しない場合など、加入資格を失ったときは、掛金の拠出を止め、運用指図者として既に積み立てた資産の運用だけを続けることになります。帰国後に国民年金や厚生年金の被保険者となれば、必要な変更手続きを行うことで掛金の拠出を再開できる場合があります。

帰国は、海外居住中に制限されていた日本の非課税制度や年金制度を見直す機会です。詳しくは海外赴任後も新NISA口座を継続できるかを非居住者向けに解説した記事で整理しています。

NISA以外の課税口座(特定口座や一般口座)も、非居住者の間は取引が制限されることが多く、証券会社によって扱いが異なります。帰国後は、保有する商品と口座区分を一度棚卸ししてください。駐在中にドル建てで積み上げた資産をどの通貨で持ち続けるか、帰国後の生活に合わせて円資産とのバランスをどう取るかまで含めて、資産全体を組み直すと、帰国後のスタートがスムーズになります。

国外財産調書や出国税など資産の申告

資産が一定規模を超えると、追加の申告義務が出てきます。日本の居住者(非永住者を除く)は、その年の12月31日時点で国外財産の合計額が5,000万円を超えると、翌年6月30日までに国外財産調書を提出する必要があります(国税庁タックスアンサーNo.7456)。
また、時価合計1億円以上の株式などの対象資産を持つ一定の居住者が国外へ転出する場合、その含み益に所得税がかかる国外転出時課税(出国税)という制度もあります。一般的な駐在員は対象にならないことが多いものの、まとまった有価証券を保有している人は事前に確認しておくと安心です。

もう一つ見落とされやすいのが納税管理人です。日本国内に賃貸不動産などがあり、非居住者になったあとも日本での確定申告が必要な人は、出国前に納税管理人を税務署へ届け出る必要があります。納税管理人は本人に代わって申告や納税を行う人で、日本に残る家族や税理士が務めるのが一般的です。届け出をしないと、還付金の受け取りや税務署とのやり取りに支障が出ることがあります。

帰国スケジュールから逆算するチェックリスト

やるべきことを、時系列で並べ替えると動きやすくなります。特に押さえるべきは二つのタイミングです。一つは現地の年金や積立金の引き出しで、書類の準備から入金まで数カ月かかることがあります。
もう一つは住民税の1月1日ルールで、年末年始の出国と帰国の日取りが、課税対象となる年度に影響することがあります。この二つを先に決めると、残りの手続きも整理しやすくなります。

時期やること
帰国3カ月前現地の年金・積立金の引き出し要件を確認(DASP、MPF、CPFの書類準備)、現地の確定申告の要否確認、出国前に提出したNISAの継続適用届出書の有無と期限を確認、iDeCoの加入状況を確認
出国の日取り住民税の1月1日ルールを踏まえ、出国と帰国のタイミングを設計
帰国直後(14日以内)転入届を出し、国民健康保険と国民年金へ切替(会社員は勤務先経由が中心)、NISAの帰国届出書を金融機関へ提出
帰国年の確定申告確定申告が必要かを確認し、非居住者期間の国内源泉所得と、帰国後の所得を整理
帰国翌年の6月30日まで該当者は国外財産調書を提出(12月31日時点で国外財産5,000万円超)

帰国は資産の出口、置いてくると失うお金を取り戻す

海外駐在の帰国は、単なる引っ越しではなく、現地に積み上げた資産を回収し、日本側の制度に組み直す出口戦略の局面です。押さえるべき要点は次の通りです。

  • 現地の年金・積立金(DASP、MPF、CPF)は、手続きをしないと受け取りが遅れたり、請求が難しくなったりする場合がある
  • 住民税は1月1日ルールで、出国と帰国の日取りが課税対象となる年度に影響する
  • NISAは帰国届出書で立て直し、非居住者の間に止まっていた制度を再開する
  • iDeCoは海外居住中の加入状況を確認し、帰国後に必要な種別変更や再開の手続きを行う
  • 資産規模が大きい人は、国外財産調書や出国税の対象になるかを事前に確認する

まずは帰国予定日を起点に、現地と日本の手続きを一枚の紙に書き出すことから始めてください。国ごとに制度が異なり、判断に迷う場面も多いため、海外駐在と帰国後の資産設計に詳しい専門家に早めに相談し、自分の状況に合った回収と立て直しの順番を組み立てることをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

海外駐在から帰国するとき、まず何から手をつければよいですか

帰国予定日を起点に、現地側と日本側の手続きを書き出すことから始めてください。特に現地の年金や積立金の引き出しは、要件の確認や書類の準備に時間がかかります。帰国の3カ月ほど前には、DASPやMPF、CPFなど自分に関係する制度を洗い出し、現地の確定申告の要否とあわせて確認しておくと、帰国直前に慌てずに済みます。

帰国のタイミングで住民税は変わりますか

変わる可能性があります。住民税は、1月1日時点で日本に住所がある人に、前年の所得を基に課税されます。1年以上の海外赴任などで日本国内に住所がないと認められ、12月中に出国して翌年1月1日も海外に居住していれば、原則として翌年度分は課税されません。一方、年が明けてから出国すると、その年度分が課税されます。

帰国側も、1月1日に日本に住所があるかどうかで、その年度の課税対象になるかが決まります。ただし、税額は前年中の日本での課税対象所得を基に計算されるため、数週間の差で必ず住民税が1年分変わるとは限りません。また、住所の有無は転出届だけでなく、赴任期間や生活の本拠などの実態によって判断されます。

オーストラリアのスーパーアニュエーションは帰国後に受け取れますか

一時滞在ビザで積み立てた場合は、ビザが失効し、オーストラリアを出国したあとにDASPとして一時金で受け取れる場合があります。ただし、返金額には源泉徴収がかかります。課税対象部分の税率は、積立金の区分に応じて35%または45%で、非課税部分は0%です。ワーキングホリデービザに関連する部分には、原則65%が適用されます。

オーストラリアまたはニュージーランドの市民、オーストラリアの永住者は原則対象外のため、自分のビザ種別を出国前に確認してください。

帰国したらNISAはまた使えますか

はい。赴任前に「(非課税口座)継続適用届出書」を出していれば、帰国後に「(非課税口座)帰国届出書」を金融機関へ提出することで、同じNISA口座で新規の買付けを再開できます。継続適用届出書を提出した日から5年を経過する日の属する年の12月31日までに帰国届出書を提出しなかった場合、NISA口座は廃止され、保有商品は一般口座へ払い出されます。

金融機関によって対応が異なるため、帰国後は早めに利用中の金融機関へ確認してください。

帰国したら日本で確定申告は必要ですか

帰国しただけで、必ず確定申告が必要になるわけではありません。帰国後は日本の居住者となり、原則として、帰国後の居住者期間に生じた国内外の所得が日本の課税対象になります。帰国後の給与は年末調整の対象になりますが、帰国前の国内源泉所得や、年末調整の対象にならない所得などの合計が20万円を超える場合、給与収入が2,000万円を超える場合などは、原則として確定申告が必要です。

また、12月31日時点で国外財産が5,000万円を超える人は、翌年6月30日までに国外財産調書を提出する必要があります。判断に迷う場合は税理士に相談してください。

帰国後の健康保険や年金の手続きはいつ行いますか

帰国して転入届を出したあと、原則14日以内に国民健康保険と国民年金の手続きを行います。会社員として勤務を再開する場合は、勤務先の健康保険と厚生年金に加入するため、勤務先を通じて手続きを行うのが中心です。
海外からの帰国後、加入手続きが完了するまでは、日本の公的医療保険に加入していない期間が生じることがあります。帰国直後は転入手続きを早めに済ませ、保険の加入状況が不明確な期間を短くすることが大切です。

参考情報

国税庁 タックスアンサー No.7456 国外財産調書の提出義務
国税庁 国外転出時課税制度
オーストラリア税務局(ATO)Departing Australia superannuation payment (DASP)
香港MPFA Early withdrawal of MPF

※本記事の内容は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘を目的とするものではありません。投資の最終判断はご自身の責任において行ってください。税務や年金の手続きの詳細は、税理士等の専門家や各国の窓口にご確認ください。

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